市街地からこの踏切を越えると、二十数軒の家屋が多くの残留物を残したまま放棄されている。30年以上前の昭和が息づいている。
夏の終わりを告げる虫たちの声。川のせせらぎ。
人の気配は一つもしない、静寂の世界。
危ない‼井戸だ。落ちたらタダでは済まない。
えっ。
30年前は確かに人々が生活していた。家屋が密集しているので、近所付き合いも深かっただろう。
これ動物がやったなら、いいパンチ持ってるぞ。
もうスイッチの入らないテレビ。
もう弾かれることのないピアノ。
もう戻って来ない主を、いまだに待ち続けているのだろうか。
各家には解体工事のために、数年前から番号が振られている。たが、工事は一向に行われず…。
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一歩入ると
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そこは昭和の風景がそのままに
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ただいまー。小さく呟いてみる。横に昆虫の飼育ケース。子どもがいたようだ。
お腹すいたー。先に、お風呂入ってらっしゃい。
洗濯機が二層式だ。ちょっと覗くけろっぴが、妙に生活感を感じさせる。
子供部屋。ファミコンが全盛期。こぐまのトンピーも元気よく太鼓を叩いていたに違いない。
小学校の運動会でスリラーを踊ったり。
ミニ四駆を組み立てたり。
昭和生まれの人には本当に懐かしい。誰もが通った通過点がここにはある。
実は急遽ここにやって来た。ご覧の通り解体工事がついに始まったのだ。
屋内のものを袋詰めして、あとは重機でペシャンコ。実に効率よく。
一旦、全て更地になるそうだ。
世間の潮流が廃墟をこの世から消してゆく。忘れないでね。振り返ると赤いテレビが自分を真っ直ぐに見据えていた。そんな廃墟の声にこれからも耳を傾ける。
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