古い民家と狭い路地がひしめいている。そのなんとなく懐かしい街並みに溶け込むようにその廃医院はある。
明治期に開業した木造二階建ての個人病院で、世代交代をしつつ1980年頃まで診察していた。2015年の「八画文化会館 ロマンチック廃病院」に取り上げられて話題となった。
一歩入るとそこは静謐。
一通り片付けられてはいるが、当時の空気がそのままに現在を浮遊している。
待っていたよ、とばかりに佇む椅子。
地域の医療を一手に担っていたのだろう。きっと、たくさんの産声が響いた。
薬瓶も去ることながら、無造作に掛けられたタオル。沈黙して長い時を過ごしている。
天井から光が差し込む。きっと元々そういう造りなのだ。
昔の個人医院は、基本的に医院長先生の住居も兼ねている。立派な仕事であると共に、気の抜けない日々だ。
先生の寝室だろうか。
傾斜が急な階段を見つけた。当時にバリアフリーの概念は無い。
広い敷地の中には縁側もある。この先には蔵があるが、施錠されていた。
毎日巻きのウラビー時計は何を思う。
薬の調合に使った天秤。長いことお疲れさまでした。
高い塀に囲まれている。ここは地域の中心的役割を果たしてきたに違いない。飛び抜けて古い家屋でありながら、地域に馴染んでいる。一帯を見守り続けている。
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