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廃能楽堂

それは山中にひっそりと佇んでいた。

立派な門構え。草の弦がわざわざお出迎えに来てくれた。

建物は自然に包まれつつある。

石を埋め込んだ通路に、囲炉裏のある部屋。予想以上に凝った造りだ。

さらに奥へ。

見事な座敷が二間。足長蜂がブンブン飛んでいた。

避けるために舞い踊りながらの撮影。

赤いカーペットの先に今回のお目当てがある。

貫禄のある古木の柱。

夢にまで見た、廃能楽堂が姿をあらわした。

ずっと来たかった場所。静寂の中、気持ちが高ぶっている。

天井には立派な照明だ。

緑のソファー。配色に拘りを感じる。

そっと檜舞台に立ち、正面を見据える。

能と言えば松。

一年を通じて枯れることのない松は、あらゆる演目と相性が良いとされた。

演者の目線。なんだか緊張する。ちなみに一匹の大きな蜂にしょっちゅう狙われていて、再び舞い踊らされている。

遠くから眺めてみる。

照明が灯ったらどんな感じになるのだろう。

放棄された侘び錆びは、荘厳さを保ち続けている。仮にここで役者さんが舞を披露したら、一興なのではないか。

小道具の鞍らしきものが残る。奥にはうっすらと細い月が見える。きっと今でも使われているのだ。

月夜の晩には、酔狂な物の怪がひっそりと舞い踊っているのだ。

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