
美しい外観の洋館風建物。いつ頃に作られたかは不明だが、建築様式から昭和初期のものと推測される。

窓ガラスが割れ、外壁が剥がれるなど、多少の崩壊が見てとれる。

玄関。右手は自転車と見せかけて、健康器具。左手にはオルガンが残されている。

「受付」のプレートの文字が右から左。戦前の物である証拠だ。


室内は雑然としていた。


カーテンは微動だにしない。

当時のままに空気が滞留している。

きっと使われなくなって半世紀近くが経っている。当時の様子を知る術はもはや無い。

ギターだ。先ほどオルガンもあったので、院内には明るい華やぎもあったのだろう。

二階には積み上げられた布団。ここはサナトリウム(結核療養所)だった可能性もある。

建物はなかなかに広い。奥に地球儀が見える。

立派な応接間だ。

どんな会話がなされたのだろう。

最後にピアノが弾かれたのはいつだろう。

廃の手はもうすぐに迫っている。もうここもきっと長くはもたない。

この建物は静かに旅立った。追憶の遥か彼方へ行ってしまったのだ。
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