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安芸造船所

夕暮れ時の造船所。

だいぶ前に閉鎖されたらしく、中はひっそり閑としている。

この場所から沢山の船が旅立っていった。

大海原ほどロマンを感じるものはないだろう。想像するだけで武者震いがする。



「君、分かってるねぇー」



振り返ると…

何とも言えないお顔の御仁だ。この造船所の主に違いない。

きっともう誰も訪れないのだろう。まっさらな砂が物語る。

と思ったら、そうでもなさそうだ…。

瀬戸内海は今日も穏やか。津波の心配のない内海、交通の便も良く造船業は戦後大いに栄えた。

何か描かれているのかな。

いや、これは塗装作業の跡だ。

繋ぎ目や錆の見える状態から、完成した船を最後にお化粧してゆくのだ。

用途不明の鉄塊。

これは失敬…大海原を知っている顔だった。

夜の足音が近づいて来た。人の営みの無いこの場所は、きっと真っ暗闇に包まれるだろう。

そして、また朝を迎える。

日本の造船業を支えた機械達は今も、誰かの帰りを待つようにそこにあり続けている。

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